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鹿せんべいはどんな味?

 高校の卒業旅行は、奈良・京都でした。
 東京住まいのわたしは、まだ1度もその方面に行ったことがありません。ですから、たいそう心待ちにしていたのです。
 もう1つ、わたしは鹿をじかに見たことがありません。動物園にはいるでしょうが、行ったことのある園には、鹿などいなかったのです。奈良には鹿がわんさかいると聞いていました。ですから、これにも大きな期待を抱いていたわけです。

 わたしの持っていた鹿のイメージは、おっとりとしていて、人畜無害なものです。犬のようにやたらと吠えないし、もちろん、噛みついたりもしません。
 世の中に、こんな平和な動物がほかにいるだろうか、などと勝手な想像を膨らませていたのです。

 京都を回り、金閣寺にへえーとそれなりの感動を覚え、ついに念願の奈良へとやって来ました。
 奈良公園で自由行動となり、夢にまで観た鹿にご対面と相成りました。
 公園のあちこちには店が出ていて、土産物のほか、鹿せんべいなるものを売っていました。見た目はミルクせんべいのような、丸く薄べったいエサです。
 当時で100円だったと思います。10枚ばかり重なっていて、紙で十字に封がしてありました。

 鹿せんべいを手にするや、周りにいた数頭の鹿が、わらわらと寄ってきます。観光客がさんざんあげているはずなのに、まだ食べ足りないようです。
 さっそく、1枚を差し出してみますと、まるでピラニアのようにわっとむさぼります。その様子がおもしろく、また1枚、さらにもう1枚と鹿達に与えるのでした。

 あんまりおいしそうに食べるものだから、ははぁ、これはよっぽどうまいと見える。いったい、どんな味がするのだろう、と好奇心をそそられました。
 急に、彼らに食べさせるのが惜しくなり、1枚取り出して、自分で囓ってみました。
 それを見ていた級友の1人が、
「ばか、そんなもん、人間が食うものじゃないぜ」とあきれ顔で注進します。
 食べてみた感想ですが、驚いたことに、味も素っ気もないのです。せんべいと言うより、ボール紙でもしゃぶっているようです。
 あとで調べてみたところ、鹿せんべいは糠で作られているそうです。その糠の風味すらありませんでしたが。

 そのとき、背後で土を蹴る音がしました。振り返る間もなく、1頭の大きな鹿が、わたしの尻に頭突きを喰らわせてきたのです。もう、びっくりしたのなんのって!
 こちらも油断していたものですから、ボーンと突き飛ばされ、ものの見事につんのめってしまいました。持っていた残りの鹿せんべいも、ぶちまけてしまい、待ってましたとばかり、ほかの鹿達が群がってがつがつと食べ始めます。
「ほれみろ」と級友。「自分達のエサを取られたと思い、怒って突進してきたんだ」

 卒業旅行というと、真っ先のそのことを思い出すのです。
 

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最終更新日:2014-04-23 20:55

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